狩猟とは (第4話)

若犬を引いて

その日は 胡麻毛紀州犬で まだ一年の若犬二頭引きでの単独猟でした 狩山は薄っすらと雪も被り 
物(獲物)の動きも良くつかむことが出来 その出会いへと期待が膨らんで行く。

オッパと呼ぶ流し猟で(オオカミ猟と呼ぶ人も多いようです) 割と積雪の深い北側の斜面を流しながら
無数に現れる 鹿のワリ(足跡)の中に
幾つかの猪の痕跡を確認 そのワリは
蛇行を繰り返し 寝屋が近いだろう事を
囁き出す・・・・・・。

鹿のワリへと乗り 狩山を下って行った
二頭が前後して 私には目も呉れずに
見通しの利く北斜面を駈け登って行く
息切らせ 私も後を追う。

  ・・・・・・・・・・・・

ぜいぜいしながら尾根へと駆け上がると
裏側の南斜面にて 二頭による激しい
吠え込みに   緊張は極に・・・。
全神経を集中し 足を忍ばせ物の上手より寄り付こうと 南側斜面をそっと覗きこむと    いたいた
怖い物知らずの若犬は 寝屋起こしした猪を前後より ここぞとばかりに吠え込みますが 尾根一帯は
胸程の高さで密集する 笹の藪の中 おまけに南側は北側に比べると 斜度もきつく足場も悪い
その猪がさきほどまで居ただろう寝屋とそのワリに かなりの大猪と気付 若犬の技量に一抹の不安が

笹藪の切れた所で吠え込む 姿の確認出来る一頭は猪と相対して居るのか 猪の気迫に押され気味で
大猪と その後方でスキを伺っているだろうもう一頭は 藪の中で姿を確認することも出来ない 
飛び降りれば 猪に当ってしまうほどの 狭い間隔の中に猪と二頭の紀州犬そして私。   動けない
主を確認した二頭は 勇気づいたのか一段と激しく吠え込みだす。

どれほどの膠着状態だったのだろう 相対している一頭が押され気味に ジリジリと後退しだす。
もう少し もう少しで猪の頭が出る 静かにライフルを上げ 引き金へと指が掛かる。

その時後方の一頭が 後足を噛みに行ったよう
で 状況が一気に崩れる。
   
   ギャン・・。

噛みに行った犬が 猪に捲られ飛ばされて行く

   あ !!  やられた・・。

猪は 笹藪の急斜面を 大岩でも転げ落とした
かのように 笹をなぎ倒しながら あっという間に
目前から消えていく。
残念 とうとう銃の前に一度もその姿を見せることなく 逃げ去って行き  今回は私達の敗北でした

飛ばされた若犬を探しつつ 尾根の高みへと這い上がりますと 遅れて登ってきたその若犬は
くやしそうに 去った猪の方へ向かい吠えつづけています
体を 丹念に調べながら大きな傷もないことに安堵し まだ興奮の冷めない若犬を宥めます

    よしよし 今度仇  とろうな ・・。
                                      OOZEKI